第5章 接尾辞「al」から始まるネットワーク

 最後、refusalの「al」も取り扱っていきましょう。「al」はrefusalにおいては名詞化語尾ですが、形容詞を作ることもでき、数としてはそちらの方が多そうです。「vital」が、例えば、そういった形容詞の例となります。

 ここでは「名詞化」の「al」だけに焦点を絞り、重要単語へのネットワークを広げていきましょう。

 ・animal
 ・approval
 ・arrival
 ・capital
 ・denial
 ・disapproval
 ・disposal
 ・proposal
 ・recital
 ・removal
 ・rental
 ・revival
 ・survival
 ・trial
 ・withdrawal

 それなりの数の重要単語を見つけることができました。このうち幾つかのとりわけ重要なものだけをかいつまんで解説していきましょう。

1、「animal」について:「サイコ」と「アニメ」の意外な関係

 animalを知らない人はいないでしょう。「動物」です。

 では、この元になっている「anima」はどうでしょうか?

 「精神分析(psychoanalysis)」を紹介したところで、「psycho:サイコ=心・魂」という重要な接頭辞を導入しておきました。

 これは古典ギリシア語の「プシュケー(psyche:魂)」以来の伝統ある語です。「psycho」は、その綴りを見れば分かる通り、その直系の子孫なのです。

 この「サイコ」であれば、知らない人はいないでしょう。

 サスペンス(suspense1)suspenseは、suspendの名詞形です。耳にぶら下げるpendant(ペンダント)から分かるように、「pend」は「吊るす」という意味を持っています。「suspend」とは、「sub + pend」、つまり「下につるしておく」ことを意味し、そこから「(宙吊り状態にして)ハラハラさせる」、「(宙吊り状態にする→)中断する」という意味が生まれました。ズボンを肩につるす「サスペンダー」というのもあります。また、最近では「保留する」の意味で「ペンディングにしておく」という日本語もよく用いられるようになりました。)映画の名手、アルフレッド・ヒッチコック監督の名作『サイコ』2)ヒッチコック監督はしばしばあからさまに「精神分析(「サイコ」アナリシス)」的な作品を作っています。映画『サイコ』は非常に「エディプス・コンプレックス」的です。、ポケモンの技として有名になった「サイコキネシス」、あるいは近年のアニメ作品『サイコパス』など3)『サイコパス(PSYCHO-PASS)』は、今以上に科学が進歩した約100年後の未来を描くSFアニメ作品です。その世界では、市民の性格傾向や精神的健康状況が絶えず政府によって監視され数値化されており、市民をその数値、通称「サイコパス(PSYCHO-PASS)」を絶えず意識しながら生活しています。それを良好に保つと確かにストレスフリーな生活ができるものの、それを支えているのは内面にまで深く食い込む監視・管理のシステムであるという両義性が描かれます。その中でも特に重要な数値が、犯罪傾向を意味する「犯罪係数」であり、物語の主役は「犯罪係数」の上昇を感知して、犯罪を未然に防ぐ警察組織の面々です。
 さて、このアニメのタイトル「サイコパス(PSYCHO-PASS)」は、もちろん、「サイコパス(psychopath)」という英単語を意識しており、それをもじったものです。英会話教室Berlitzのよく知られたCMが示すように( https://www.youtube.com/watch?v=KLSdOY-6R_U )、ドイツ人にも区別が難しい「s」と「th」の発音ですが(「sinking」と「thinking」のまさに致命的(lethal)な聞き間違い!)、「サイコパス」も日本人が「th」と「s」を区別できないことを利用し、その独特なタイトルのうちに作品のテーマに関わる2重の意味を滑り込ませているのです。
 すなわち、犯罪係数を含め、さまざまな精神状態を可視化する数値が「PSYCHO-PASS」と呼ばれるのは、その数値が各人の精神的健康状態を示し、それによって様々なことに対する「通行許可証(PASS)」として通用するからなのですが、実は、このシステムには欠陥があり、作中で「免罪体質」と呼ばれる、真の「サイコパス(psychopath)」、つまり、反社会的・犯罪的な「病」的心理傾向を持つ者については、的確にその犯罪係数を測定できないのです。本当の「サイコパス(psychopath)」は、「サイコパス(PSYCHO-PASS)」を、「パス(pass)」してしまう。だって、実際、私たちは「path(病気)」と「pass(通過)」を区別できないのだから。こう考えれば、アニメ「サイコパス(PSYCHO-PASS)」のテーマは、日本人がthとsを区別できないことなのです(もちろん、半分以上、冗談です)。
 さて、今話題にした「path」は「病」という意味を持ち、「psychopathology」といえば「精神病理学」です。「pathology:病理学」は覚えておいていい単語でしょう。
 この「path」の起源はというと、「感情」や「苦悩」を意味した古典ギリシア語の「パトス(pathos)」です。「感情」の意味からは「情熱」の意味が、「苦悩」の意味からは「病」の意味が派生したのです。「パトス」が「情熱」を意味することは、「ほとばしる熱いパトスで~♩」という有名な歌詞がありますから、知っている方も多いでしょう。
 ところで、本文にて直後に登場する古代ギリシアの哲学者であるアリストテレスは、その『弁論術』のなかで、人を説得するために動員するべき三つの要素として「エトス」「ロゴス」「パトス」を主張しました。どれも多くの言葉を生み出した死ぬほど重要な語ですが、その話は長くなるので、ここで終わりにしておきましょう。
 アニメの「サイコパス(PSYCHO-PASS)」に戻ると、英単語学習の観点から注目するべきは、そこで登場する武器、「ドミネーター」です。「ドミネーター(dominate:支配する・制圧する→dominator:支配者・制圧するための武器)」は、「制圧」対象の犯罪係数の高さに応じて威力を増し、最初の「パラライザー(para/lyze:麻痺させる)」から「エリミネーター(e/liminate:除去する・抹殺する)」、さらに「デコンポーザー(de/com/pose:分解する)」へと変化していきます。そして、「パラライザー」までは「ノンリーサル」モードなのに対して、「エリミネーター」以上は「リーサル」モードと言われます。先にBerlitzのCMについて触れた時に、「lethal」という単語を出したのを覚えているでしょうか。この「lethal」は、「リーサル」と発音し(「th」と「s」は日本語では区別できません!)、「致命的な・生命に関わる」という意味なのです。「リーサル・ウェポン」などとして、日本語でもよく使われますよね。パラライズもエリミネートもデコンポーズも、それぞれ重要な接頭辞・語根を含んでおり、「橋頭堡」として利用可能です。こんなに一気に単語を覚えられるなんて、本当に素晴らしい武器です。もし、このアニメを見た方がいれば、「dominator」を、英単語を「dominate」するための武器として存分に利用してほしいものです。
非常によく使われる言葉だからです。

 さて、文句なしに西洋哲学の始祖のひとりであるソクラテスは、まさに「哲学」を「プシュケーへの配慮」、すなわち、「魂(=生)を絶えず吟味し、単に生きることではなく善く生きようと試みること」と規定し、それ以来、哲学にとって「プシュケー」は重要な言葉になっています。

 そういうこともあってか、ソクラテスの弟子(であるプラトン)の弟子であり、万学の祖とも呼ばれるアリストテレスは、「ペリ・プシュケース:魂について」というという著作を残しています。

 そして、この著作のラテン語訳が「De Anima(デ・アニマ)」です。animaとは、魂・生命を意味する言葉であり、ラテン語におけるギリシア語「プシュケー」の訳語でもあったのです。

 そういうわけで、animalとは、生命を持っているもの、「動物」なのです。

 animaという語との関係で言えば、本サイトは私の趣味のため、そしてまた一応の読者として想定していないわけではない受験生たちが連想関係を繋げやすいようにということもあって、アニメについての言及が多いですが、その「アニメ」という語の語源もここにあります。

 単なる絵は動きませんが、絵を何枚も何枚も書き、それを次々に見せると(パラパラ漫画で体験できるように)絵が生き生きと動き出します。まさに死せる絵に命が吹き込まれるかのようなのです。

 そういうわけで、「animate:元気付ける・命を吹き込む」という語の名詞形として「animation」という言葉が生まれたわけなのです。

 歴史を学んでいる人は「アニミズム(animism)」も覚えておくといいでしょう。動物や植物も含め、ありとあらゆるものに「生命(anima)=魂」を認めるのが「アニミズム」なのです。

 animaという語根に関しては、最後にもうひとつ、「unanimous(ユナニマス)」は覚えておく価値があるでしょう。

 ここでの「un」は、もともとは「uni」です。「uni」の意味はご存じでしょうか?

 「uni」はラテン語の「1:unus」に由来し、「1」を意味します。最後の「1枚」になったとき「uno!」と叫ぶカードゲームがありますが、もちろん、元をたどれば、こちらも「unus」に行き着きます。

 「uniform:ユニフォーム」とは、全員が着用する「1つの服」ですし、「unique」は「唯「一」の」、そしてそこから派生して「独特な」ということを意味します。

 日本人のユニフォーム(?)ことユニクロは「Unique Clothing Warehouse(ユニークな服の卸売店)」の略称です。

 さて、unanimousに戻りましょう。unanimousとは、「みんなのanima(心)がひとつ」ということで、「形容詞:全会一致の・同意見の」という意味になるのです。

2、「arrival」について

 arrivalは、皆さんも恐らくは知っているだろう、「arrive:到着する」の名詞形で、「到着」を意味します。

 ar/riv/al

 arは、もうお分かりでしょうか、英語のtoにあたるラテン語、「ad(~へ)」です。では、rivとは?いったい、どこ「へ(ad)」至ることが、優れた意味で「到着」することなのでしょうか。

 勘のいい人は推測できたかもしれませんが、(一説によれば)rivとはriverであり、ここでは川岸です。かつて、それこそ蒸気機関以前の世界では、なんらの動力も使わずに移動できる「川」を使った交通が今よりもはるかに重要だったのでしょう。だからこそ、川岸につくことを意味する、極めて具体的で特殊な言葉が、「到着」一般を意味し得るようになったのです。

 この「riv」を語根に持つ言葉としては、もうひとつ、「derive」を覚えましょう。

 「de」も極めて重要な接頭辞です。その原義は「下」です。

接頭辞 de

 下へと移ったわけですから、最初の位置からは離れていますよね。さらに、下がるというのは基本的には悪い、否定的な意味をもちます。こうして「分離・否定」の意味がでてきます。

 例えば、despiseという語を考えてみましょう。spiseは重要語根「spect」の一種で「見る」という意味です。「下に見る」、文字通り「見下す」という否定的な意味となるわけです。

despise 語源

 さて、deriveに戻ると、deriveは、川という語根「riv」の意味とあいまって、「下」と「分離」の両方をしっかりイメージできます。川が下流の方向へ向けて枝分かれしている様子を考えてみればいいのです。

derive 語源 

 ここからderiveは「派生する・由来する/(川から水を引くように)~を引き出だしてくる」という意味になります。

 最後に、riv/alもこれに合わせて覚えておくと良いでしょう。rivalは、もともと川で魚を取り合った敵を意味したと言われています。

3、「capital」について:資本主義とは何か?

 capitalは、様々な意味で非常に重要な単語ですので、しっかり見ておきましょう。

 この語の由来は、ラテン語のcaput、つまり、「頭」です。

 ここから派生して、英語でcapといえば、縁のない帽子(=野球帽など)を意味します。日本語でも、帽子のことをキャップと言ったりします。ただ、最近であれば、ペンのキャップ、ペットボトルのキャップなど、「被せて閉じるもの」の意味で使うことが多いかもしれません。

 あと、日本語でもよく使うものといえば、captainです。captainとは文字通り「キャプテン」という意味です。英語でも、リーダーのことを「頭」と呼んでいるわけで、これは日本語と同じ発想です。日本語でもリーダーを「頭(かしら)」と言いますから。

 さて、ここまで前置きをして、capitalに行きます。

 まず、第一の意味は、「首都」です。国の「首=頭」となるような第一の都市ということです。日本でも「首都」と言いますから、これは同じ発想のようにも思えますが、ひょっとすると、「首都」はcapitalの訳語として生まれたのかもしれません。

 続いて、第二の意味は、「大文字の」です。文の「頭」には、大文字が来ることから、そう言われるようになったのでしょう。「capital letters」で「大文字」を意味します(letterは「文字」の意味)。

 第三の意味は、「極刑の」です。あのギロチンで「頭」がポロリと落ちる様を想像してください。「capital punishment」とは、頭を切り落とすような罰、つまり、「極刑」なのです。

 いまでは恐怖政治の象徴のようにみなされているギロチンですが、もともとは死刑囚の苦痛を軽減するために発案されたと言われています。確かに、一瞬で死ねるなら、長く苦しむよりは比較的マシかもしれません。

 さて、最後に第四の意味として、おそらく現代において最も重要な意味、すなわち「資本」という意味があります。

 現代社会において、「経済」が極めて重要な位置を占めていることに異論はないでしょう。そして、現在の経済のシステムは「資本主義(capitalism)」と呼ばれています。この「資本」とはなんなのでしょうか。

 現代の私たちの社会的な生を根本で規定し、構造化している、この「資本」。これについて、皆さんも何がしかのことは知りたいのではないでしょうか?

 さて、「資本」とは、capitalの語源からもう予測がつくところですが、「頭金」です。そして、資本主義とは「頭金」が決定的に重要な経済システムなのです。

 その仕組みはこうです。まず、「頭-金(cap-ital)」を持っている人、資本家は、そのお金を使って、農業がしたければ農場を買う、製造業がしたければ工房や工場を作る、あるいはサービス業がしたければ店舗と設備を購入します。

 これらは価値を生みだすのに必要な手段として、「生産手段」と呼ばれます。資本家が頭金で生産手段を揃え、その生産手段を使って生産した商品が売れれば、お金が入ってきます。そこでの儲けは、当然、すべて資本家のものです。

 さて、創業からしばらくして、努力が実り、お客さんが増えてきました。仕事も自分一人でこなせる量を超えてきました。ここで可能かつ必要になるのが、「労働者」を雇うことです。

 さて、「労働者」の価格は労働市場で決定されます。労働力にも需要と供給があり、労働者の価格も、その労働者の需要と供給で決定されます。

 こういうわけですから、その労働者を雇って100万円儲けが増えるとしても、労働者に100万円払う必要はありません。例えば、労働市場の観点から、20万でもその人を雇えるなら、払うのは20万円でよいのです。

 もちろん、100万円の儲けを生み出す人であれば、50万で雇うという資本家が現れることもあるでしょうが、さまざまな理由で、普通、そう理論通りに転職機会を活用できるものではないのが厄介なところです。

 さて、そして、重要なのは、ここが「資本主義」が「資本主義」たるゆえんですが、いくら労働者が自分の勤める「会社」の発展に寄与しようと、会社は「頭金」を出した「資本」家の所有物であり、労働者のものではないという点です。

 毎日、長い時間を会社で過ごし、時には大いに会社の発展に貢献している労働者ですが、会社の何一つ、彼のものではありません。

 資本家と会社の関係は、会社は頭金を出した資本家の所有物であるということなのに対して、労働者と会社の関係は、労働者は労働力を売り、対価として給与をもらうということでしかないからです。

 その結果、もしその会社を買いたいという人が現れた時、資本家は会社を売る代わりにお金を手に入れますが、労働者は一銭たりとも受け取らず、所有者が変わった会社でただ働き続けるだけなのです。

 これが、「会社のビジョン」なるものを声高に語り、もっと一生懸命働くように動機づけようとする資本家の「ビジョン語り」に対して、「資本家ではない=株式を持っていない」一般の労働者が、常に一定の懐疑・留保を身に携えて対するべき理由です。

 いくら労働者がもらっている賃金以上に働いて、会社の価値を増したところで、そこで作られた価値はさしあたりすべて資本家のものなのであって、ただ間接的に、会社側の「評価」を通じた「給与の増加」によってのみ、労働者はそのおこぼれにあずかることができるのです。

 こう語れば、確かにここに一つの不平等があるようにも見えます。資本主義とは、「頭金=資本」を持って、事業をはじめることが決定的に有利になる、「はじめた者勝ち」の世界であるように思えるのです。

 さて、「capitalism」をこのように簡単に説明した上で、その反対物とみなされることの多い、「socialism(社会主義)」について見てもよいでしょう。

 そう、以前に長々と解説した、あの「social」です。「社会主義」と「資本主義」の差異は、「生産手段(≒会社)」を誰が所有するかの違いです。

 「社会主義」の発想によれば、「資本主義」は「会社の運営=商品の生産」を全部、頭金を出した資本家たちという個人任せにしている点で、本質的に無秩序で効率が悪い。

 さらに、資本家と労働者という階級の区別、資本家が会社を所有し、労働者は給料を受け取るだけだという区別は、資本家が最初に頭金を出したとはいえ、普段は労働者がほとんどの価値の生産を行なっているという前提のもとでは、非常に不平等に思える。

 そして、資本主義の無秩序性が「不景気・恐慌」という形で現れた時、最悪の事態が訪れる。労働者は失業し、もはや生活していけなくなるのです。

 こうして、社会主義は、このような帰結を持つ「生産手段(≒会社)」の資本家による所有(=私有)に対して、「生産手段」を「社会」で「共有」することを主張しました。だから、「資本主義」に対する「社会主義」なのです。

 20世紀には、ロシアにおける革命の成功を皮切りに、「社会主義」は実際に多くの国で国家運営の原理となり、「現実に存在する社会主義(really existing socialism)」として、いわば、巨大な政治的実験が行われました。

 結論として言えば、社会主義は三つの問題点を孕んでいたが故に、最終的には崩壊したと言われています。

 第一に、「生産手段を社会で共有する」といっても、現実的には国家による生産手段の所有となり、国家を運営する官僚に絶大な権力が集まったこと、その意味で不平等は全く解消されなかったこと。

 第二に、社会から(先にソシャゲに即して見たように、「社会的なもの」の本質の一側面である)「競争」が取り除かれたことにより、労働や創業の意欲が減退し、社会に活力が失われたこと。

 第三に、国家官僚の運営する計画経済では、変化の激しい時代には、革新を行うのに十分な情報収集と試行錯誤を行うことができなかったこと。

 この第三の点を考えると、資本主義の優位性が見えてきます。確かに、資本主義は、会社の運営、ひいては、社会全体の生産の運営が個々の資本家に委ねられるという意味で「無秩序」です。

 しかし、それは革新を生み出そうとしている主体が(社会主義では、ある意味で国家のみであるのに対して)無数にいることを意味しています。資本主義では、お金を儲けようとする多数の資本家が、血眼になって情報収集を行い、試行錯誤を重ねているのです。

 だからこそ、そこには失敗も多いでしょうが、大きな成功を生む種のまた多い-それを芽吹かせることで、社会が前に進んでいくのです。

 そして、「頭金」が重要であるからといって、「頭金」の有無が決定的な不平等を生むわけでもないのです。

 そこには投資という仕組みがあるからです。現在であれば、もしあなたが良いアイディアをもっているなら、それを売り込むだけで「頭金」を持つ人から、お金を投資してもらえる機会なども用意されているのです。

 よいアイディアがあれば、お金を投資してもらえ、しかも、有限責任の株式会社という仕組み、さらに株式発行という資金調達の仕組みを利用すれば、失敗したとしても、最初に自分で出した資本金を失うだけで、個人として借金を背負う必要は必ずしもない。そこにはリスクが(それほど)ない。

 このリスクの低減にこそ、資本主義が爆発的な社会の発展を可能にした一つの魔法があるわけです。

 皆さんも、おそらくは否応なく、この資本主義の中で生きていかなければならないのでしょう。

 その中でどう生きていくべきか考える前に、その前提として、資本主義について、それがどのようなダイナミックな仕組みなのか、もっと詳しく学んでおくとよいように思います。

4、「disposal」と「proposal」について

 さて、disposalとproposalは形が似ていますね。両者は以下のように分解されます。

 dis/pos/al

 pro/pos/al

 さて、poseは「置く」の意味の重要語根。これを用いた言葉で、皆さんにとって一番馴染み深いのは、おそらく、「ポジション(position)」でしょう。

 日本では、野球やサッカーなどのスポーツで、よく「僕のポジションはセンターです」「私のポジションはフォワードです」などと使われますが、この「position」という言葉は、「pose:置く」の名詞形、つまり、「置かれた位置・立場」という意味なのです。

 監督やチーム全体の決定に従って、それぞれの選手がそれぞれの持ち場に「置かれている」「配「置」されている」というイメージです。

 さて、disposeです。

 dis(2→分離・否定)+ pose(置く)→配置する・処分する

 dis/poseですから、それぞれの物を離して置くということで、まず他動詞で4)他動詞とは、後ろに前置詞のついていない裸の名詞を置いて、それを目的語とできる動詞。対する自動詞は、目的語を置けないか、意味の上で目的語に相当するものを置ける場合も、前置詞を介してそうする動詞です。「配置する」という意味合いが出てきます。

 続いて、自動詞ではdispose of Aの形で「Aを処分する」という意味となります。自分から離しておくということは、いらないものを処分するということなわけです。

 disposeの名詞形であるdisposalは、「配置・処分」の意味となります。「処分」の意味から、「処分する権利」の意味が発展し、その意味を使った重要な熟語として、「at A’s disposal:Aが自由に処分できる」があります。

 proposalの方はどうでしょうか?これの動詞形である「propose:プロポーズ」なら多くの方がご存知でしょう。プロポーズとは日本語では「結婚の提案」を意味しますが、英語ではより幅広く「提案」一般を意味します。

 pro/pose

 proとは「前」、その中でも特に「時間的・空間的に前方へ」という意味が強いです。ここから、群衆の中から「前」へ出ていって、他者の目に触れるところ、人の注目を浴びるところという意味も出てきます。

接頭辞 pro

 proposeもこの意味合いで、「前に置く」といっても、単に前に置くのではなく、他者の目の「前」に検討されるべきものとして差し出すのです。そのように差し出されるものといえば、「提案」でしょう。

 このような「他者の面前で」といった意味を持つproとしては、「produce」や「profession」も重要ですが、これはのちに接頭辞proのページで見ていきましょう。

5、「revival」と「survival」について

 さて、最後にrevivalとsurvivalを取り扱っておきましょう。

 「リバイバル」「サバイバル」といえば、おそらく、皆さんも知っているでしょう。

 一度終わった映画や劇を再演することを、「リバイバル上映」とよく言いますし、近年人気を博している「サバゲー」は「サバイバルゲーム」の略ですから。

 re/viv/al

 sur/viv/al

 この語根のvivとはなんでしょうか?これは「生命」です。

 ラテン語で生命のことを「vita」といったのです。そこから例えば「vital:ヴァイタル:生命に関わる→重要な」という形容詞も生まれました。

 この「ヴァイタル」であれば、みなさんも医療ドラマなどで聞いたことがあるでしょう。あれは「vital signs:生命を示すさまざまなサイン」の略なのです。

 他にも、おなじみのvitamin(ビタミン)も、「生命に必須なアミン」というところから、その名前が来ています。

 文学などに詳しい向きは鷗外の「ヰタ・セクスアリス(vita sexualis:ラテン語ではvはwの音)」などを思い出してもいいかもしれませんね。これは英語でいうと「sex(ual) life」という意味です。

 さて、ここまでくると、後は簡単でしょう。「revival」とは、生へと再び帰り行くことであり、したがって、「生き返り・復活」です。これが比喩的に、実際の生命以外に用いられれば、最初に見た「リバイバル」の語法となるわけです。

 続いて、「survival」は?こちらでは接頭辞「sur」が初登場しました。surは「上」という意味です。

survival 語源

 survivalとは、なんらかのハードルを「超えて」、生き延びること。その意味での「生き残り」です。

 「al」については、これくらいにしておきましょう。次ページで序論をまとめて、「重要接頭辞編」で、それぞれの接頭辞をもっと詳しく見ていくことにしましょう。

前後のページへのリンク

第4章 接頭辞「re」から始まるネットワーク
第6章 序論のまとめ

目次→「パラ単:語源と連語からみる英単語」トップページ

References   [ + ]

1. suspenseは、suspendの名詞形です。耳にぶら下げるpendant(ペンダント)から分かるように、「pend」は「吊るす」という意味を持っています。「suspend」とは、「sub + pend」、つまり「下につるしておく」ことを意味し、そこから「(宙吊り状態にして)ハラハラさせる」、「(宙吊り状態にする→)中断する」という意味が生まれました。ズボンを肩につるす「サスペンダー」というのもあります。また、最近では「保留する」の意味で「ペンディングにしておく」という日本語もよく用いられるようになりました。
2. ヒッチコック監督はしばしばあからさまに「精神分析(「サイコ」アナリシス)」的な作品を作っています。映画『サイコ』は非常に「エディプス・コンプレックス」的です。
3. 『サイコパス(PSYCHO-PASS)』は、今以上に科学が進歩した約100年後の未来を描くSFアニメ作品です。その世界では、市民の性格傾向や精神的健康状況が絶えず政府によって監視され数値化されており、市民をその数値、通称「サイコパス(PSYCHO-PASS)」を絶えず意識しながら生活しています。それを良好に保つと確かにストレスフリーな生活ができるものの、それを支えているのは内面にまで深く食い込む監視・管理のシステムであるという両義性が描かれます。その中でも特に重要な数値が、犯罪傾向を意味する「犯罪係数」であり、物語の主役は「犯罪係数」の上昇を感知して、犯罪を未然に防ぐ警察組織の面々です。
 さて、このアニメのタイトル「サイコパス(PSYCHO-PASS)」は、もちろん、「サイコパス(psychopath)」という英単語を意識しており、それをもじったものです。英会話教室Berlitzのよく知られたCMが示すように( https://www.youtube.com/watch?v=KLSdOY-6R_U )、ドイツ人にも区別が難しい「s」と「th」の発音ですが(「sinking」と「thinking」のまさに致命的(lethal)な聞き間違い!)、「サイコパス」も日本人が「th」と「s」を区別できないことを利用し、その独特なタイトルのうちに作品のテーマに関わる2重の意味を滑り込ませているのです。
 すなわち、犯罪係数を含め、さまざまな精神状態を可視化する数値が「PSYCHO-PASS」と呼ばれるのは、その数値が各人の精神的健康状態を示し、それによって様々なことに対する「通行許可証(PASS)」として通用するからなのですが、実は、このシステムには欠陥があり、作中で「免罪体質」と呼ばれる、真の「サイコパス(psychopath)」、つまり、反社会的・犯罪的な「病」的心理傾向を持つ者については、的確にその犯罪係数を測定できないのです。本当の「サイコパス(psychopath)」は、「サイコパス(PSYCHO-PASS)」を、「パス(pass)」してしまう。だって、実際、私たちは「path(病気)」と「pass(通過)」を区別できないのだから。こう考えれば、アニメ「サイコパス(PSYCHO-PASS)」のテーマは、日本人がthとsを区別できないことなのです(もちろん、半分以上、冗談です)。
 さて、今話題にした「path」は「病」という意味を持ち、「psychopathology」といえば「精神病理学」です。「pathology:病理学」は覚えておいていい単語でしょう。
 この「path」の起源はというと、「感情」や「苦悩」を意味した古典ギリシア語の「パトス(pathos)」です。「感情」の意味からは「情熱」の意味が、「苦悩」の意味からは「病」の意味が派生したのです。「パトス」が「情熱」を意味することは、「ほとばしる熱いパトスで~♩」という有名な歌詞がありますから、知っている方も多いでしょう。
 ところで、本文にて直後に登場する古代ギリシアの哲学者であるアリストテレスは、その『弁論術』のなかで、人を説得するために動員するべき三つの要素として「エトス」「ロゴス」「パトス」を主張しました。どれも多くの言葉を生み出した死ぬほど重要な語ですが、その話は長くなるので、ここで終わりにしておきましょう。
 アニメの「サイコパス(PSYCHO-PASS)」に戻ると、英単語学習の観点から注目するべきは、そこで登場する武器、「ドミネーター」です。「ドミネーター(dominate:支配する・制圧する→dominator:支配者・制圧するための武器)」は、「制圧」対象の犯罪係数の高さに応じて威力を増し、最初の「パラライザー(para/lyze:麻痺させる)」から「エリミネーター(e/liminate:除去する・抹殺する)」、さらに「デコンポーザー(de/com/pose:分解する)」へと変化していきます。そして、「パラライザー」までは「ノンリーサル」モードなのに対して、「エリミネーター」以上は「リーサル」モードと言われます。先にBerlitzのCMについて触れた時に、「lethal」という単語を出したのを覚えているでしょうか。この「lethal」は、「リーサル」と発音し(「th」と「s」は日本語では区別できません!)、「致命的な・生命に関わる」という意味なのです。「リーサル・ウェポン」などとして、日本語でもよく使われますよね。パラライズもエリミネートもデコンポーズも、それぞれ重要な接頭辞・語根を含んでおり、「橋頭堡」として利用可能です。こんなに一気に単語を覚えられるなんて、本当に素晴らしい武器です。もし、このアニメを見た方がいれば、「dominator」を、英単語を「dominate」するための武器として存分に利用してほしいものです。
4. 他動詞とは、後ろに前置詞のついていない裸の名詞を置いて、それを目的語とできる動詞。対する自動詞は、目的語を置けないか、意味の上で目的語に相当するものを置ける場合も、前置詞を介してそうする動詞です。
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