第4章 接頭辞「re」から始まるネットワーク

 語根「fuse」から始まるネットワークを見た後には、今度は、「re」から始まるネットワークを見てみましょう。

 しかし、このほとんど日本語にも定着している「re」の場合、これによって通じる道があまりにも多すぎるのが逆に問題です。

 リスタート、リターン、リツイート、レス(ポンス)、リプ(ライ)、リセット、リトライ、リバイバル、リサイタル、レクリエーション、リライト、レビュー、レポート、リニューアル、レボリューション…1)おそらくはさまざまな理由によって、アニメには「re」がよく使われますが(最近で考えても、「Relife」、「リヴァイヴァル」が登場する「僕だけがいない街」「リゼロ」など枚挙にいとまがありません)、その極致が1999年放映の「無限のリヴァイアス」でしょう(このタイトルは本文で触れたホッブズの「リヴァイアサン」と似ていますが、「大人のいない社会」≒「自然状態」という本作のテーマを考えるなら、それはおそらく偶然ではないのでしょう)。本アニメでは、タイトルバックに必ず「re」から始まる単語が記され、劇の進行に合わせる形で単語が変化していきました(最初はreveal)。また、本アニメのオープニングのタイトルは「dis-」ですが、うしろの「-」が暗示しているように、これは明らかに接頭辞です。以上からして、本作は接頭辞アニメといっても過言ではないでしょう。
 「dis」といえば、Fate/stay nightの原作版OPは「This illusion」であるのに対して、アニメ版は「disillusion」と名前が変更になっています。「この幻想」から「dis-illusion」、つまり「幻想の否定→幻滅」への意味の横滑り、「そげぶ」的な運動は印象的です。

 これら全てを扱うのはあまり得策ではないので、今回は、refuseと同様に、「否定的」な意味を持っている「re」から始まる単語のみをピックアップしましょう。

接頭辞 re

 この折り返しの運動を表現する「re」は、その「反対」への運動性からして、しばしば「否定的」な意味を身にまとうことができるのです。

 ここで取り上げるのは、以下の5つにしておきましょう。

 ・reject
 ・rebel
 ・revolt
 ・resist
 ・repress

1、「reject」について

 re/ject

 皆さんは、他に「ject」がついた単語を思いつくでしょうか?よく考えてみてください。絶対に、知っている単語が幾つかあるはずです。

 project、subject、object、adjective、inject、eject…あたりです。少なくとも一つは知っているのではないでしょうか?

 さて、これらに共通するjectの意味はいかなるものでしょう。それは「投げる(throw)」です。

 re(反対に・返す) + ject(投げる)→「(投げ返す)→拒絶する」

 このように、refuseと同じ「拒絶」の意味になります。提出された書類などを乱暴に投げ返してしまう様を想像してください。refuse的な杯の注ぎ返しと同様、非常に強い拒否の意図が伝わってきますね。

 もしアニメの話をするとすれば、re/fuseではFate/Zeroを参照しましたが、re/jectでは「魔法少女まどか⭐︎マギカ」を参照するのが良いでしょう。

 その第2話で、マミが投げ渡した「グリーフ・シード(grief seed:悲しみの種)」を、ほむらは「re/ject(投げ-返し)」ます。

 もちろん、それはマミによって強い「拒絶」として解釈され、だからこそ、第3話で、マミはほむらの誠意による忠告に耳を貸さずに、ほむらを捕縛状態にしたままでシャルロッテとの対決に向かうことになってしまうのです。その意味では「re/ject」の象徴的な意味こそがマミを殺したとも言えるわけです。

 投げ渡されたものの「投げ-返し(re/ject)」は、かつての人々がそれを「拒絶」の象徴的行為と解したのと同様、現代日本においても、「拒絶」をあからさまに示すものと考えられていることが、ここからも判明になるわけです。

 jectの他の単語については、また「ject」のページで解説することにしましょう。

2、「rebel」について

 これはあまり重要な関連語がなく、寂しい語です。

 re/bel

 belは戦争を意味し、belligerent・bellicose(共に「戦争が大好きだ!」という意味)といった単語も作っていますが、いずれも重要ではありません。

 re(再び・反対に)+ bel(戦争)→「動:反乱を起こす、敵対する、名:反逆者」

 名詞形rebellion(リベリオン:反乱)などは聞いたことがある人も多いかもしれません。

3、「revolt」について

 rebelに続く、もう一つの「反逆」がrevoltです。

 re/volt

 ここにあるvolは「巻く」という意味です。よく本やDVDをvol.1などと言いますが、このvolはvolumeの略です。

 このvolumeという語は、英語でも「~巻」という意味がありますし、「ボリュームがある」という日本語表現と同様、「量」という意味も表します。そして、もちろん、「ボリューム下げて!」という時の、「音量」の意味もあります。

 では、その原義はというと、volの「巻く」という運動によって作られたもの、巻物です。ここから「~巻」という意味が出てくるのは理解しやすいでしょう(日本語でも「巻」!)。

 「音量」はどうでしょうか、ひょっとすると、音量を調節するつまみがくるくる巻くタイプだったことから、「音量」の意味も表すようになったのかもしれません。

 さて、revoltに戻りましょう。これは「反対にくるっと回る」、つまり、相手に「背を向ける」ことから、「動詞:反乱を起こす、名詞:反乱」の意味になったようです。

 このvolから出た重要語には、evolve、involve、revolveなどがありますが、これらはvolの専用ページで扱いましょう。

4、「resist」について

 語源を少なからず知る人であれば、誰もが愛さざるを得ない重要語根、「sist」がついに満を持して登場です。

 consist、insist、persist、assist、existという、重要単語の目白押しによって、語源学習の一つの花形を形成します。

 さて、そんな「sist」の意味は「立つ」です。

 re(反対に)+ sist(立つ)→「抵抗する」

 resistは、自分に向けられた敵の強大な力にもかかわらず、「それに反対し、それに逆らって、立ち続ける」という(いささか感動的な)イメージの語です。

 例えば、第二次大戦のフランスのことを思い出しましょう。ナチス・ドイツに占拠され、ヴィシー政権という傀儡政権が作られたフランスですが、国内にはナチスに抵抗する組織も多数存在しました。

 彼らは圧倒的なナチス・ドイツの権力の網の目を掻い潜りながら、その抵抗活動を続けていたのです。現在でも、フランスでは、この抵抗運動は「la Résistance」と大文字で、つまり、固有名詞化されて呼ばれているようです。

 「レジスタンス」、この言葉の響きのかっこよさには、憧れる人も多いかもしれませんね。もちろん、英語でも、resistの名詞形は「resistance:抵抗」です。

 sistを語根に持つ単語たちについては、これまたsist専門ページで取り扱いましょう。

5、「repress」について

 さて、rebel・revolt・resistの「反乱3兄弟」に引き続き、最後は、repressを取り扱いましょう。

 この語がすでに登場していたことを覚えているでしょうか?そう、フロイトの「抑圧」です。意識が、自身にとって不快な記憶や想念が思考にのぼってきそうになったとき、それを「反対に押し返す」のがrepress です。

 re(反対に・後ろに) + press(押す)→「抑圧する・抑え込む」

 このpressも、compress、suppress、oppress、depression、express、impressなど、重要単語が盛り沢山です。こちらも、専用ページで扱っていきましょう。

 さて、こんなところで「re」はいったん切り上げて、次章では「refuse」の名詞形である「refusal」の接尾辞「al」から始まるネットワークを散策してみましょう。

前後のページへのリンク

第3章 語根「fuse」から始まるネットワーク
第5章 接尾辞「al」から始まるネットワーク

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References   [ + ]

1. おそらくはさまざまな理由によって、アニメには「re」がよく使われますが(最近で考えても、「Relife」、「リヴァイヴァル」が登場する「僕だけがいない街」「リゼロ」など枚挙にいとまがありません)、その極致が1999年放映の「無限のリヴァイアス」でしょう(このタイトルは本文で触れたホッブズの「リヴァイアサン」と似ていますが、「大人のいない社会」≒「自然状態」という本作のテーマを考えるなら、それはおそらく偶然ではないのでしょう)。本アニメでは、タイトルバックに必ず「re」から始まる単語が記され、劇の進行に合わせる形で単語が変化していきました(最初はreveal)。また、本アニメのオープニングのタイトルは「dis-」ですが、うしろの「-」が暗示しているように、これは明らかに接頭辞です。以上からして、本作は接頭辞アニメといっても過言ではないでしょう。
 「dis」といえば、Fate/stay nightの原作版OPは「This illusion」であるのに対して、アニメ版は「disillusion」と名前が変更になっています。「この幻想」から「dis-illusion」、つまり「幻想の否定→幻滅」への意味の横滑り、「そげぶ」的な運動は印象的です。
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