ヘーゲル『法の哲学』の紹介

ヘーゲル『法の哲学』(中公クラシックス)の読書案内

 全ての思想や哲学は危機から生じる。学問は暇から生まれるとも言われるが、それがある危機との対決からしか生まれえないこともまた否定されえない。

 ヘーゲルの社会・政治哲学の全領域を展開する本書も同様で、19世紀の初頭、フランス革命での政治的な自由の激発、イギリスでの経済的自由・市場経済の勃興という一切の社会秩序を破壊してしまいかねない二つの危機に際会して、ヘーゲルは後進国だったドイツでただペン一つ持ってそれに拮抗しようと試みる。

 自由に基づくことでより合理的な社会秩序が可能であることを示そうとするのである。そのためにヘーゲルは自由とは何かということから始めて、法、道徳、家族、市場、国家、世界史を論じ、理性的な近代国家の姿を描き出そうと奮闘する。

 だが、それだけではない。全ての社会・政治哲学の中でヘーゲルのそれを際立ったものにしているのは、それが立ち向かった危機がフランス革命等の特定の時代の特定の危機に還元されず、ヘーゲルがそのうちに危機の中の危機、人間であることに内在している根源的な危機を見いだしたことである。

 それこそヘーゲルが否定性と呼んでいるものであり、人間が人間であることによって抱え込む自己自身との、そして世界との分裂、違和、対立、否定的関係である。これは人間に内在する普遍的危機であり、だから、この危機と対決するヘーゲルの苦闘を追いかけてみることは、私たちが自分自身の危機、そこから全ての考えることが始まる危機と出会うためにも有益なのである。

関連記事:より詳しい内容の紹介

 以下の記事の第4節「「働くことと愛すること」-精神分析と哲学」において、もう少し詳しい本書の内容の紹介を行なっています。

私の研究(?)を振り返って—肯定を肯定するために

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