フロイト『精神分析(学)入門』の紹介

フロイト『精神分析(学)入門』の紹介(新潮文庫他)の読書案内

 教養とは何か?私はそれを世界に対する既存の見方に距離を取り、自分なりの見方を構築する方法、しかも、知的に、つまり徹底的に言葉を通じてそうする方法として定義したい。かくして教養は既成の知識のセットとして教えることが出来ず、ただ実演して見せることが出来るだけである。そして、私が思うに、その最高の実演の一つが本書である。

 本書は円熟期のフロイトが初学者向けに大学で講義した際の原稿をもとにしたもので、「無意識」、つまり、私たちの自我が一貫性を保つために抑圧され、「知らないこと」とされなければならなかった、私たちの意識とは別の「知」が存在するという仮説の正当化に向けて、言い間違いなどの錯誤行為、夢、神経症の順で精神分析の経験が検討される。

 このことが、事例を説明するために仮説(「無意識」とその構造)を立て、絶えず別の説明可能性と比較することで仮説を自己批判し洗練するという知的なプロセスによって遂行され、私たちを別の見方へと開いてくれるのである。

 精神分析の魅力をもう一つ紹介すると、それは精神分析が徹頭徹尾「性」の探求であることにある。なぜ「性」(と排泄行為)、つまり人間が生存し繁殖するための必須の自然的行為が抑圧され隠されるべきものとされているのか。

 フロイトが構築したエディプス・コンプレックスを中心とするリビード発達論は、この問いへの解答の試みとして見ることが出来る。その妥当性には議論の余地があるが、私たちは少なくともその問いを共有し、フロイトとともに問い始めることが出来るはずである。

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 以下のページにてフロイト理論の全体的な再構成を行なっています。興味のある方はご笑覧ください。

フロイト性理論の再構成 セクシュアリティの解釈学の基礎づけ

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