重要接頭辞 1)para

 接頭辞paraについて話していきましょう。本テキストの名前は「パラ単」であり、既存の単語集に対するパロディー的な存在です。「PARA単」はparodyです。そして、このつづりの類似は偶然ではありません。parodyも、paraから来ているのですから。

 あるいは、以前に第5章の注でアニメ「サイコパス」に登場する「ドミネーター」なる武器を詳しく扱うなかで、そのうち最も威力の弱いモードである「パラライザー」について述べたことを覚えているでしょうか。paralyzeは「麻痺させる」という意味でした。ここにもparaが登場しています。

 「麻痺させる(=しびれさせる)」といえば、原初の哲学者の一人であるソクラテスが、ある対話のなかで、対話相手から、話をする相手を絶えずシビレさせる「シビレエイ」とあだ名されていることが印象的に思い出されます。

 ソクラテスは何によって相手をシビレさせ、麻痺させるのでしょうか。それは、「ドクサ(世間に通用している意見)」に対して、それとは全く別の逆説的な意見、「パラドクサ(paradox=パラドックス)」を対置することによってです。ここにも「para」がでてきました。

 あるいは「パラレル(parallel)・ワールド」という言葉を、みなさんもきいたことがあるかもしれません。私たちの世界と並行する別の宇宙のことですね。

 さて、そろそろparaのイメージもついてきたでしょうから、種明かしをしてもいいでしょう。

 paraも古典ギリシア語以来の伝統ある接頭辞で、そのもともとの意味は「横」「横に並んで」です。ということは、もとのものとは「別」なわけで、そこからparaには「反対」の意味も出てくるわけなのです。

接頭辞 para

 paraがつく単語で一番重要なparallelは、このparaの意味をそのまま表現するもので、「別の・並行した」という形容詞になります。

 では、ソクラテスが、それによって対話相手をparalyzeしたparadoxとはなんでしょうか。それは「doxa(ドクサ:世間に通用する意見)」とは、別の意見、単に「別(para)」というだけではなく、それにまっこう「反対(para)」するような「逆説(paradox)」なのです。

 では、「パロディー」とは?後半のodyは、ode(歌)の意味で、こちらもギリシア語以来の言葉です。このode-odyに関しては、melody(メロディー)という単語を思い起こせばいいでしょう。あるいは、comedy(コメディー:喜劇)、tragedy(トラジディー:悲劇)も同じです。古代ギリシアでは、喜劇も悲劇もコーラスを伴う歌劇だったのです。

 そういうわけで、parodyとは、元の歌と並ぶ別の歌です。その意味が一般化して、いまではなんらかの作品をなんらかの意図で真似たもの全般を指す言葉になったのです。

 他には、paraphraseやparagraphも覚えておきましょう。「para/phrase(パラフレーズ)」とは、「フレーズ」を「別の」ものへと置き換えること、つまり、「言い換える」です。paragraphは、もともと、「文字(graph)」の並びの「横」に段落記号があったことから派生した言葉で、「パラグラフ=段落」を意味します。

 最後に二つの単語を追加しておきましょう。parasolとparachuteです。

 parasolとは、solに「反対」し、solを「防ぐ」もの1)これまでのparaと、このparaは実際には起源が違うようだが、話のつながり上、ここでは両者に関係があるかのように扱います。。solとは、「ソーラーパネル」「ソーラー発電」などでおなじみの「太陽」です。だからパラソルとは日傘の意味なのです。

 では、最後にparachuteとは?皆さんはテレビ番組『世界ふしぎ発見!』で、クイズに間違えると司会の草野仁が叫ぶセリフ、「ボッシュート!」を知っているでしょうか。

 それが叫ばれると問題に対する掛け金であった「ヒトシ君人形」が下に開く空洞へと吸い込まれていくのです。これは「没収」と「ダストシュート」を組み合わせた語です。「ダストシュート」とは、「ゴミ(ダスト)」をそこへ「落とす」ための穴で、古い集合住宅や学校には良くあったようです。

 さて、遠回りしましたが、ここから分かるとおり、この「シュート」とは、chuteとつづり、「落ちる」という意味なのです。サッカーなどの「シュート(shoot:撃つ)」とは違うわけです。そういうわけで、parachuteとは、「落ちる」ことに「反対」し、それを「防ぐ」もの、すなわち、パラシュートです。

 そして、これが言いたかったのですが、この「パラ単」が、パラシュートとおないようにみなさんが「落ちること」を「para」するような存在になることを願っています。

 他の、本当に重要な接頭辞を扱っていく次のページからも、この「パラ単」は、paraの運動、すなわち、すでにある話の流れを絶えず横にずらし、いわば世界を広げていく運動を続けていくつもりですので、今後とも、お付き合いいただければ幸いです。

 この単語帳がどんなにふざけたものになったとしても、他にしっかりした単語帳は山ほどあるのですから、大した問題はありません。パラ単は、既存の単語集のparodyであり、それらにpara/site、つまり「パラサイト=脇に住むこと=寄生」していればいいのですから。

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(2)重要接頭辞編
重要接頭辞 2)ab

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References   [ + ]

1. これまでのparaと、このparaは実際には起源が違うようだが、話のつながり上、ここでは両者に関係があるかのように扱います。
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