第5章 仮定法
仮定法とは「非現実だ」と思うことを表現するために使われる特別な動詞の形です。
反対語は「現実だ」と思うことを表現するために使われる「直説法」で、これまで扱ったすべての文が「直説法」でした。
仮定法を教えるときによく問題とされるのが、「仮定法」とifとの関係です。結論から言えば、仮定法とifの関係はベン図を使って、以下のように表現できます。
「仮定法」とは、これは明らかに訳語のミスなのですが、「仮定」を表す表現ではなく、「非現実」を表す表現です。
だから、ifで「仮定」をおこなったとしても、それが「現実的」な仮定であれば、仮定法は使いません(図の左側)。
対して、ifを使った仮定が話し手にとって「非現実」だと思える場合、仮定法を用います(図の中央)。
また、「非現実」なことを表現したいとき、必ずしも「もし~ならば(if)」という必要はないので、ifのない仮定法の表現もいくらでも存在します(図の右側)。
5-1、仮定法過去
仮定法過去とは、こちらも訳語がややこしいのですが、「現在の事実に反すること(非現実)」を表現するもので、そのために時制を一つずらし、「過去形」と「助動詞の過去形」を用います。
つまり、仮定法過去の「過去」は「動詞の過去形」を用いるということを意味し、過去のことを言っているという意味ではないのです。「意味」ではなく「形」に即した名称であることに注意しましょう。
以上から明らかな通り、仮定法は「非現実」を表す特別な動詞の形なのですが、それはその実、単に時制を一個過去にずらすということでしかないわけです。
If I have money, I will buy this book.
もしお金があったら、私はこの本を買うつもりだ。
If I were rich, I would buy this large house.
もしお金持ちだったら、この大きな家を買うのに。
二つの文を見比べましょう。上が「直説法」、下が「仮定法」です。
上は「本」という安いものを買うことを考えているので、「お金があったら」といっても、「手持ちのお金があったら」という意味の、家に帰ったりATMからお金を下ろしたりすれば実現する程度の現実的な仮定なので、直説法を使っています。
対して、下は「大きな家」という高い買い物のことを考えているので、「お金があったら」というのは、「お金持ちだったら」という、実現の困難な「非現実的」仮定となります。
だから、現在のことなのに過去形、しかも、主語が単数なのに「were」という特別な形を使っているのです。
ifがある場合は「仮定法かも」と身構えるので安心ですが、読解上の問題は、ifがない場合には、仮定法に気づきづらいということです。
そこで「wouldという助動詞の過去形があったら仮定法の可能性も考える」という態度を身につけておくべきです。
5-2、仮定法過去完了
仮定法過去完了とは、これまたややこしいですが、「過去の事実に反すること(非現実)」を表現するもので、そのために時制を一つずらし、「過去完了形」と「助動詞の過去形 + 完了形」を用います。
If I had studied hard, I could have passed the exam.
もっと勉強していたら、試験を通過できただろうに。