★はじめに:なぜ語源と連語に注目するのか?

 ここでは「パラ単(PARA-Tan)」を書き始めたときに考えていたことをまとめておきます。

単語学習の重要性

 英語を習得する上で「英単語」の学習の占める比重は極めて大きいものです。そのため、そこをいかに挫折せず、また効率化できるかという問題が、英語学習の成否、そして大学受験では受験全体の成否を左右することもしばしばです。

人間の記憶の性質

 このような問題意識は、私たちを人間の「記憶=暗記」の仕組みについての問いへと導きます。これまでの学習心理学の成果から、私たちの関心を惹くこととして、少なくとも二つの重要なことが分かっています。

 すなわち、第一に、人間の記憶は「意味付け」を通じて定着するということです。意味が「理解」できないものを丸暗記しようとしても、あまり成果は望めません。逆に言えば、暗記すべき項目の意味が「理解」でき、それがより広い文脈に関連付けられた場合には、記憶は非常に高い効率で定着するというわけです。

 第二に重要なのは、行き着くところは似ているのですが、人間のいわゆる「忘却」は、記憶が全くなくなってしまうことではなく、単にうまく引き出せないだけ、すなわち、「検索失敗」だという説です。

 ここからは、有効な記憶術として、思い出すための様々なとっかかりを作っておくこと、つまり、暗記すべき項目相互の連関のネットワークを多様に張り巡らさせておくことが重要だとの結論が得られます。

「語源」と「連語」へ:意味付けとネットワークの構築

 以上から、単語を暗記する際にも、「意味付け」と「連関」が重要だと考えられます。ここで、そのために使える二つの事象が英単語そのもののうちにあることに私たちは気づきます。すなわち、「語源(etymology)」と「(主に前置詞との)連語関係(collocation)」です。

 というのも、まず「語源」的方法は、単語を、単語の構成要素である接頭辞・語根・接尾辞へと分解することで、単語の語義をより小さく基礎的な単位である接頭辞・語根・接尾辞の組み合わせから理解し「意味づけ」ることを可能にしますし、さらに、共通の接頭辞・語根・接尾辞を持つ語という形で、語相互のネットワークをも作り出してくれるからです。

 また、同じような効果を「連語関係」も持っています。というのも、特定の前置詞との連語関係は、その単語の「意味」の方向性を示してくれることが多いですし、さらに、同じ前置詞と関連を持つ単語という仕方で、単語同士を連関させることもできるからです。

旧来の単語集について

 もちろん、よほど古い単語集でなければ、多くの単語集がこのような事実に注目しています。この教材は、そのような他の単語集とどのような関係にあるのでしょうか。

 語源系の単語帳に関して言えば、まず、その多くは受験に特化しておらず、ビジネス書寄りであったり、あるいはほとんど趣味的なものでさえあったりして、受験生にとっては使いにくいものが多いように思います。

 受験生からすれば、受験にとって重要でないものも含め、とにかく大量の単語が提示されているため、それを使い込んでいくことが難しいのです。

 さらに、これは語源編の冒頭でも述べることですが、旧来の語源単語集は、解説が少なすぎるように思われます。接頭辞と語根の組み合わせのリストを提示しておけば、それで十分であるかのようなのです。

 しかし、すでに単語の意味が分かっている人の「整理」にはそれで良いものの、これから語源を使って単語の意味を覚えていこうとする初心者にとっては、それ自体未知である接頭辞と語根の組み合わせを突然提示されても、それだけでは、それぞれの単語をうまくイメージしたり、適切に意味づけたりすることができず、結局、効率的に単語を暗記できないという事態が生じます。

 これに対して、本サイトでは、収録語を重要単語に限定する代わりに、それらの語、そして接頭辞や語根自体に対して、詳しい解説ないしストーリーを付しました。

 その解説においては、さらに、日本語として使われている単語に端緒をとったり、あるいは一語に特別に詳しい解説を付したりして、「まずこれは絶対に忘れない」という足場、いわば「橋頭堡」を作ることを心がけました。

 そのような「足場」があってはじめて、同じ語根や接頭辞を通じて、知識を横方向に拡大できると考えたからです。

 解説においては、また「イメージ」の力も頼りにしました。英語の語源の特徴は、現在では抽象的な意味を表す語であっても、もともとは非常に具体的な動作を表す語からできているという点です。このことは、語源は「イメージしやすい」という帰結を生み出します。

 この特性を生かし、本教材では、接頭辞と語根の組み合わせを、具体的な動作としてイメージし、それがどうして現在の意味を形成するのか、一つ一つ想像的なストーリーを構築しておきました。ここに本テキストの最大の特徴があるはずです。

 次に話題を連語に移すと、それに関しても似たような事情があります。

 この連語(コロケーション)についても以前から、その重要性は認識されていますが、それも、個々の単語について連語を(あるいは、連語で)覚えるのが重要だという観点が強く、ある特定の前置詞との連関が、単語の意味的傾向を示しており、また特定の前置詞と連関する単語をまとめて覚えることで、単語の間にネットワークを張り巡らすことができるという観点が強調されているわけではありません。

まずは単語を楽しもう

 以上の理由により、単語集の枠組みで語源や連語を集中的に扱うことにも、いまだに意味があると思われたのです。

 などと、真面目な話を書いてきましたが、名前の通り、この「パラ単」はどこまでもふざけた単語帳です。まずは、とにかく楽しく、単語たちと戯れていきましょう。

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第1章 語源を考える—言葉の生まれた場所へと、想像的にさかのぼること

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