そもそも語源とはなんでしょうか?語源とは単「語」の起「源」、その生まれた場所を意味します。では、語はどのように生まれるのでしょうか?
目次
1、語の作られ方:「Internet」を例として
現在の英語は何万という単語を持っていますが、少し考えてみれば分かる通り、最初から、それほど多くの単語があったわけではありません。というのも、必要な単語の数は、明らかに、社会の発展度ないし複雑性と相関するからです。
例えば、100年前にはInternetなどという単語は必要なかったでしょう。社会が発展し、多種多様な事態が生じ、様々なものが生み出されるにつれ、それを表現するための新たな単語が必要になるのです。
では、人は新しく必要になった単語をどのように作るのでしょうか?何か適当に音や綴りを作り出すでしょうか?Internetという単語は、何か思いつきで作られた単語なのでしょうか?
そんなはずはないでしょう。何か適当に作ったのでは、その単語が広く世間に受け入れられる可能性は極めて低いですし、そもそも本当に「適当に、思いつきで」音や綴りを作ることは極めて難しいはずです。
では、どうするのでしょうか?すぐに思いつくのは、すでにある語を組み合わせたり、少し変化させたりして、新しく表現したい事柄にあった単語を作り出すという方法です。
そして、実際、これが正解なのです。例えば、Internetという言葉は、Inter/netと分解できます。interは「間」という意味を表し、netは、日本語でもそうであるように、「網、ネット」を表します。
Internetは「コンピューターの「間」に張り巡らされた「網目」」なので、Internetと名付けられたのです。
2、抽象的な意味を持つ語も、もともとは具体的な動きから派生した
実は、英語の単語の多くが、このような仕組みで作られています。もちろん、私たちが覚えるべき単語の多くは、Internetほど新しいものではなく、その起源はもっと古くにさかのぼります。
古い時代、人間の生が今よりもっと単純だった時代を想像してみましょう。そこには何があるでしょうか?まずもってあるのは、抽象的な諸観念、例えば、政治・経済・社会、あるいは正義・利益・共生等々といったものであるよりは、むしろ、人がなす非常に具体的な動作の数々です。
ですから、いまでは抽象的な意味を持っている様々な言葉であっても、その起源には、驚くほど具体的な身体的動作、「動き」が隠されています。
3、「refuse」の起源への遡行
ここで例えば、refuseという単語を取り上げてみましょう。refuseは「拒否・拒絶する」を意味する言葉で、仕事でも結婚でも賞でも検査でも入学でも、ほとんどあらゆることの「拒否」に使えます。
そこには共通の具体的な動作はなく、「認めないこと」を一般的に指し示す抽象的な言葉です。
では、refuseの成り立ちはどうなっているでしょうか?これはre/fuseと分けられます。
reについては、みなさんも何がしかのことを知っているでしょう。reを使った、return(「リターン」:返す・戻ってくる)などは、日本語でもよく使われています。
reはどのような意味を表現するものなのでしょうか。下のような動きをイメージすると分かりやすいはずです。
reは、もともと、この折り返しの運動を意味します。ここから幾つかの意味が派生してきます。それを視点の違いから説明することができるでしょう。
この折り返しの運動は、最初の進行方向に視点をとれば、「後ろへ(back)」向かうことであり、また矢印が始まる始点からみれば、出て行ったものがまた現れたのですから、「再び(again)」であり、折り返し地点を視点とすれば、「反対に(against)」向かうことなのです。
では、fuseはどういう意味を持っているのでしょうか。これはいまの英語でいえば、「pour」、つまり、「(液体などを)注ぐ」という意味です。
つまり、re/fuseとは、もともと「注ぐ」という動きと、先の折り返しの動きの組み合わせなのです。
この組み合わせが、どうして「拒否」の意味になるのでしょうか。おそらく、以下のような場面をイメージできるでしょう。
この語が生まれた時代には、いまでもある程度は残っている風習だと思いますが、酒を注ぎあい、飲み交わすことが、親睦のしるしだったのです。
初対面のもの同士が親交の始まりのしるしとして、あるいは、戦争したもの同士が和解のしるしとして、一緒に酒を酌み交わす。そんな慣習があったのでしょう。
このことを前提に、親しみの意図を込めて注がれた飲み物を、reしてしまうということについて、考えてみましょう。どう具体的に想像しても良いですが、例えば、その飲み物を、それがそこから汲み出された樽や甕に注ぎ「返し」てしまう。
あるいは、もっと悪い場合には注がれた杯をひっくりかえして中身を地面にぶちまけてしまう。いや、さらに悪い場合には相手に向かって中身をぶっかけてしまう…。
このような行為が、相手の親交の意図に対する徹底的な「拒絶」を意味したことは明らかでしょう。
アニメなどを好む向きは、例えば、Fate/Zero第11話「聖杯問答」のライダーとアサシンのやりとりを思い浮かべてもいいでしょう。
そこではライダーがアサシンに供そうとひしゃくに注いだワインを、アサシンたちがライダーにぶちまけ、それが親睦の「拒絶」のしるしとなって、ライダーによる宝具展開とアサシンたちに対する殲滅攻撃へと、場面が移っていきます。
ここからも明らかな通り、re/fuseとは注がれた酒を以上のような意味で「反対に」「注ぎ返す」こととして、それは親睦の申し出に対する決定的な「拒絶」の表明だったのです。
そこから派生して、refuseは、どこかの時点で、もはや具体的な注ぎ返しの動作であることから離れ、抽象的・一般的に「拒絶・拒否する」を意味する語となったのでしょう。
4、語源の威力を真に引き出す、イメージ化とストーリー化
語源を学んでいくと分かることですが、現在は抽象的な意味を持つ言葉の多くが、語源の次元では、非常に具体的な動作・動きを表現しています。それゆえに、それは非常にイメージしやすいのです。
ここから一つの有益な学習法を考え出すことができます。すなわち、語源を学ぶ際、このような動作をしっかりイメージし、それが現在の意味に派生していく様をストーリーのように理解することです。
というのも、学習心理学が明らかにしている通り、単なる言語的な情報に加え、イメージを利用すれば記憶の定着度は高まるからですし、また、ストーリー的に「意味づけ」ることが、記憶を定着させる上で決定的に重要だからです。
この意味では、語源を学ぶこと、それは言葉の生まれた場所に、イメージを通じて、つまり、想像的に、遡っていくことなのです。
さて、しかし、ここで話は終わりではありません。
人間の記憶を考える上で、イメージ化と意味づけだけが重要なのではないからです。もう一つ、思い出すためのとっかかりをたくさん作ること、つまり、他の事項とのネットワークを張り巡らせることも大切です。
このためにも、語源が強力な武器を提供します。ページを改め、またre/fuseを出発点にして、この点を見ていきましょう。そこでは、「接頭辞・語根・接尾辞」という概念を導入して単語を分解することで、ネットワークを広げていきます。